今日、最も尊敬するピアニストの1人であるマルタ・アルゲリッチの映画『私こそ、音楽』を観て参りました。
映画鑑賞と言えばポップコーン片手にジュースと一緒に楽しむ!というのが通常ですが、今回ばかりは違います。
私にとって『神』が登場する映画なのですからそんな事はできません!
内容はドキュメンタリータッチで、ピアニストである彼女の姿を追うというよりは1人の女性であり、母であるアルゲリッチの姿を娘の目線で捉えたもので、昨今のプライベートのひと時を撮ったもの、また過去の若かりし姿を撮ったものを彼女自らの演奏曲をバックに織り交ぜられたものでした。
若かりし頃の彼女はそれはそれは美しく、情熱的なピアノで全世界を魅了する、まさに女神です。
歳を重ね70歳を超えた現在のアルゲリッチ。
顔には歴史の跡が何本も刻まれていても、美しいロングヘアがシルバーグレーに変わっても、その美しさとピアノは少しも衰えを知りません。
ピアニストが結婚するという事、子供をもうける事、老いるという事。。。
彼女と私には僅かな共通項しかありませんが、生きていく上での色々を深く考えさせられるものでした。
一番印象的、というか衝撃的だったのは演奏会の舞台に上がる前の控え室から舞台袖までの1シーンです。
彼女はとても機嫌が悪く、落ち着かない様子で「気分が悪い」「疲れた」「今日は弾きたくない」と舞台に出る直前まで不平を訴えます。
まるで駄々っ子のように。。。
16歳で既に『生ける伝説』と言わしめたピアニスト。
でも観客の見えない所での姿はまるで私と同じでした。(同じ、と言ってしまうのもかなり勇気がいりますが。。。)
本番前の、あの何とも言えない気持ち、衣装も何もかも脱ぎ捨てて遠くに逃げ出したい、神もあの思いと孤独に戦って観客の前に降臨するんだ、と。。。
学生だった頃、ミラノでのコンクールで審査員を勤めていた彼女との忘れられない出会いを思い出しました。
遥か彼方からでもそのオーラは隠しきれません。
まさに後光が差している様でそばに近寄ることも、ましてや話しかける事もはばかれます。
何度も言ってしまいますが、私たちにとっては神なのですから。
それでも、あとで絶対に後悔する!とありったけの勇気を振り絞って彼女に話しかけました。
「アルゲリッチ先生、お疲れのところすみません。どうかあなたのサインを頂けないでしょうか?」と。。。
彼女は気だるく、でもとびきり美しく「私疲れているのよ。とっても疲れているの。」と呟きながらサラサラとサインをして下さいました。
そのサインは今、ピアノを前に座ると真正面にあり、私の演奏に対して時にダメ出しをして下さり、時に励まして下さいます。(この辺は全くの私の思い込みです)
東京都渋谷区にて
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